河内厚郎事務所
メッセージ
「なぜ文化的アイデンティティが必要なのか?」
 都市の文化というのは、たとえていうなら樹木のようなものではないでしょうか。根元の土壌を粗末にしていると、いつしか幹が衰え、枝も葉も貧相になり、美しい花を咲かせることなどできなくなります。そうなると、どんなに勢いのある枝を移植したところで、ちゃんと育ってはくれません。せっかく足元に蓄積された文化をおろそかにして舶来のテーマパークや遊園地を誘致しても、地域に元気がよみがえってくるとは思えないのです。文化を意味する「カルチャー」は、もともと「耕す」という意味なのですから。
 例を挙げると、古代の大阪は畿内の港町として栄え、ときに首都となりました。中世には、海に沈む夕日を背景にした四天王寺が浄土信仰の拠点となり、〈水上の御堂〉といわれた大坂本願寺が宗教都市の観を呈した時代もあります。近世には水運の利により商業・興行都市として繁栄し、さらに近代以降は工業地帯に変貌していくというように、主産業は時代の変化につれて移り変わってきました。ですから、「商都」や「工都」や「港都」というキャッチフレーズに乗って或る時代の特定の産業を都市のアイデンティティーにすえてしまうと、急激な構造変化の時代に対応できなくなってしまうことがあるのです。それよりも、時代を超えて蓄積されてきた文化的特性のほうにアイデンティティーを置けば、地域が持つ風土としての特性や潜在的な記憶をたえず内外に意識させ、その地に生きる市民としての自覚を住民に促して、地場産業を活性化していくことにもつながるのではないでしょうか。

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